山羊の頭を持つ異形の存在、
バフォメット。
その姿は悪魔崇拝や秘密結社の象徴として知られ、
オカルト好きなら
一度は目にしたことがあるだろう。
しかし、
その正体や起源について明確に知っている人は少ない。
バフォメットという名前は
中世ヨーロッパの記録に突如として現れ、
テンプル騎士団を異端と断じる口実として利用された。
その後19世紀には
魔術師エリファス・レヴィが
「山羊の頭を持つ両性具有の存在」
として描き出し、
現在のイメージが定着する。
さらに近代以降は
フリーメイソンやイルミナティといった秘密結社の象徴とされ、
数々の陰謀論を生み出す存在となった。
恐怖の対象でありながら、
同時に人々を魅了してやまないバフォメット。
中世から現代に至るまで、
なぜこの名も姿も曖昧な存在が
人々を惹きつけ続けているのか。
今回のブログでは
「バフォメットとは何か」
という問いに迫り、
テンプル騎士団の時代から秘密結社、
そして現代文化まで
歴史を横断してその正体を解き明かしていく。
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バフォメットとは何か
バフォメットという名前が歴史に現れるのは、
中世ヨーロッパの記録においてである。
しかし、
その起源や意味は定かではなく、
さまざまな解釈が存在している。
最も古い言及のひとつは、
12世紀の十字軍遠征時に遡る。
当時の文書には
「バフォメット」
という名が異教の神を指す言葉として登場しており、
イスラム教の「マホメット(ムハンマド)」を
誤って伝えたものではないかともいわれている。
つまり、
キリスト教徒から見た異教の偶像崇拝の象徴として、
この名前が広まった可能性がある。
後の時代には、
このバフォメットの名は
「悪魔的存在」の代名詞として
扱われるようになった。
実体が不明なまま
「悪魔崇拝」
「異端の象徴」
と結びつけられ、
恐怖と疑惑を煽る存在となっていったのである。
その後、
この名前はある歴史的事件によって
一気に有名になっていく。
それが、
14世紀初頭に起きたテンプル騎士団の異端審問であった。
テンプル騎士団とバフォメット
バフォメットという名前が
広く知られるきっかけとなったのは、
14世紀初頭に起きたテンプル騎士団の異端審問だった。
テンプル騎士団は十字軍遠征で力を持ち、
ヨーロッパ中に財力と影響力を広げていた。
しかしその繁栄は王侯や教会にとって脅威となり、
ついに
フランス国王フィリップ4世とローマ教皇クレメンス5世によって
異端の罪を着せられることになる。
裁判の記録によれば、
騎士団は
「バフォメットという偶像を崇拝していた」
と告発された。
その像は山羊の頭を持つものとも、
人間の頭部とも記録され、
統一性のない証言が数多く残されている。
実際には、
これらの供述の多くが拷問下で引き出されたものであり、
信憑性は極めて低い。
歴史家の多くは、
この「バフォメット崇拝」の罪は
騎士団を解体するための政治的口実だったと考えている。
だが、
この事件をきっかけに
「バフォメット=悪魔的偶像」
というイメージが広がり、
その名はヨーロッパ中に浸透していった。
ここで初めて、
バフォメットは単なる名前以上の
「恐怖の象徴」
として定着し始めたのである。
近代に形成されたバフォメット像
中世の記録では
曖昧だったバフォメットの姿は、
19世紀になって大きく形を変える。
そのきっかけとなったのが、
フランスの魔術師エリファス・レヴィである。
1854年、
彼は著書『高等魔術の教理と祭儀』の中で、
山羊の頭を持つ人型の存在を
「バフォメット」として描き出した。
それは片手を上に、
もう片手を下に掲げた姿で、
胸には両性具有を示す象徴を持ち、
額には五芒星を刻まれていた。
この図像は善と悪、
男性性と女性性、
天と地
といった二元性を統合する象徴とされ、
単なる悪魔ではなく
「宇宙的な調和」を体現する存在
として表現された。
レヴィの描いたこのイメージこそが、
現代に伝わる
「山羊の頭を持つバフォメット像」
の原型となった。
以来、
バフォメットはオカルトや魔術思想の中で
特別な意味を持つ存在となり、
秘密結社や反体制的な思想の象徴へと広がっていった。
つまり、
今日広く知られる
「恐怖の悪魔的存在としてのバフォメット」は、
中世ではなく19世紀のオカルティズムの中で形作られたイメージなのだ。
秘密結社と陰謀論に登場するバフォメット
19世紀にエリファス・レヴィが描いた山羊頭の図像は、
やがて秘密結社や陰謀論の世界に取り込まれていく。
特にバフォメットは、
フリーメイソンやイルミナティといった秘密結社と結びつけられ、
「悪魔崇拝のシンボル」
として扱われるようになった。
一部の反フリーメイソン文書では、
彼らがバフォメットを崇拝していると主張された。
この主張は歴史的根拠に乏しいが、
秘密結社という閉ざされた存在に対する不信感が、
バフォメットを「禁断の偶像」として人々の想像に焼き付けた。
さらに20世紀には、
バフォメットはサタニズムとも結び付けられる。
アントン・ラヴェイが設立した「サタン教会」では、
逆五芒星と山羊の頭を組み合わせた「バフォメットの印」が
公式シンボルとして採用され、
世界中で知られるようになった。
こうしてバフォメットは、
中世の異端審問で登場した曖昧な名前から、
近代オカルティズムの象徴を経て、
現代では秘密結社や悪魔崇拝の代名詞として広まった。
事実と虚構が入り混じりながら
陰謀論の中で「恐怖の象徴」
として膨れ上がっていったのである。
現代文化におけるバフォメット
バフォメットはオカルトや陰謀論の枠を超え、
現代文化の中でも強烈な存在感を放ち続けている。
音楽の世界では、
特にヘヴィメタルやブラックメタルのバンドが
アルバムジャケットやステージ演出に
バフォメットの意匠を取り入れてきた。
「反キリスト」「反体制」の象徴として、
山羊頭の像は過激な表現の一部となり、
ファンを熱狂させるアイコンとして機能している。
映画やアニメ、
漫画などでも
バフォメットは「禁断の象徴」として
登場することがある。
その姿は恐怖と神秘を兼ね備え、
単なる悪役の枠を超えて
「人知を超えた力」のシンボルとして
描かれることが多い。
さらに、
アメリカでは現代の宗教運動
「サタニック・テンプル」が
巨大なバフォメット像を建造し、
信教の自由を訴える象徴として利用した。
この像は宗教的恐怖の対象であると同時に、
権威や伝統に対抗する「自由」の象徴として
議論を巻き起こした。
つまり
バフォメットは、
恐怖と畏怖の対象でありながら、
同時に反逆や自由のシンボルとして
現代社会に浸透しているのである。
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まとめ
バフォメットは、
中世ヨーロッパで突如として登場した謎の名前から始まり、
テンプル騎士団の異端裁判によって
「悪魔的存在」として広まった。
その後、
19世紀の魔術師エリファス・レヴィが描いた山羊頭の像によって
現在のイメージが形作られ、
近代オカルティズムや秘密結社のシンボルへと変貌を遂げた。
現代では、
フリーメイソンやイルミナティとの関連を語る陰謀論、
サタニズムのシンボル、
さらにはポップカルチャーの中で
「恐怖」と「自由」を象徴する存在として生き続けている。
バフォメットの正体は曖昧であり、
その歴史には虚構と事実が入り混じっている。
だからこそ、
ただの悪魔像ではなく、
宗教・政治・文化を横断する「禁断の象徴」として
人々を惹きつけてやまないのである。
参考文献
– Barber, Malcolm. *The Trial of the Templars*. Cambridge University Press, 2006.
– Churton, Tobias. *The Templars: The Rise and Spectacular Fall of God’s Holy Warriors*. Duncan Baird Publishers, 2004.
– Lévi, Éliphas. *Dogme et Rituel de la Haute Magie*. Paris, 1854.
– Introvigne, Massimo. *Satanism: A Social History*. Brill, 2016.
– サタニック・テンプル公式サイト
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